2009/07/10

アフリカのインフォーマル・セクター

武内進一「コンゴの食糧流通と商人 -市場構造と資本蓄積」(池野旬・武内進一編『アフリカのインフォーマルセクター再考』アジア経済研究所, 1998)

アフリカのインフォーマル・セクターについての論文、抜粋・整理します。

アフリカにおいて商業・流通部門は、インフォーマルセクター(政府による規制を受けず、捕捉されない経済部門)の重要な構成要素である。
アフリカの食糧流通に関する研究が本格化したのは1970年代以降。
商人に対して、情報ギャップを利用して不当に高いマージンを獲得し、農民や消費者を搾取するという古典的な商人像は否定される傾向にあり、むしろ経済発展におけるその積極的な役割を評価する論調が支配的になった。市場介入的な政策がことごとく失敗に終わったアフリカ諸国の事例を考えれば、民間商人のイニシアティブを尊重するという潮流はとりあえず妥当である。

キャッサバは、都市、農村を問わずコンゴで最も重要な主食であり、そのほとんどが国内の小農によって生産される。キャッサバは土中から掘り出すと短期間に劣化するため、ほとんどが農村部で加工されてから流通する。調査によれば出荷地域の相互の重なりは少なく、農村地帯においては出荷のために交通機関を選択できる状況にはなく、トラックが3/4を占める。
ふたつの市場の調査で、流通業者のなかでは、トラックを自ら所有し、自己商品の割合が高い男性、というカテゴリーが65.3%、57.5%と最も多い。ただ、片方の市場に不明(8.0%)が多い(もう片方はほとんど0)。つまり片方の市場のみに運輸業に特化している者が1割弱いたということである。これは自分で商品を運ぶトラックすら所有せずに、大商人が買い付けて市場に運んでいる、ということを意味する。

東南アジアの農産物流通は異なって、流通業者のあいだに階層的な分業関係は存在せず、彼らの経済活動はより自律的である(組織化されていない)ようだ。
農民がキャッサバを販売する相手はいつも決まっていることが多い。その活動範囲はたいてい決まっており、広範囲にわたって「なわばり」のようなものが存在する。ただし、取引関係の固定性は必ずしも買い手に価格支配力があることを意味しない。
著者の作成したマージン推計の計算式によれば、トラックを所有する大商人が一回の農村群と市場の往復によって巨額の利潤を得ていることが明瞭にわかる。逆にトラックを賃貸しなければいけない大商人は、高額の賃貸料によって獲得するマージンは低く、運輸の専門業者は一回あたりのマージンはそれほど高くないが、リスクが少なく利潤率は高い。小商人は生存維持水準にすぎない。
つまりインフォーマルセクターであっても、大規模な活動によって高蓄積を実現する経済主体と、小規模・零細主体とが混在しているのである。同時に運輸サービス市場の寡占利潤が農産物市場の寡占利潤に比べて高水準であることを示唆するものである。結局はトラックを所有するか否かが大きい。

このような格差を生む要因として、トラック購入のために金融市場の未整備と、トラック所有にともなうリスク(悪路による故障など多く、保険もほとんど効かない)があげられる。逆に、このような要因によって、トラックのレント料が高騰し格差を拡げているとも言える。したがって政府介入の策として単にトラック購入補助などの直接的政策だけでなく、道路整備、金融・保険市場の整備など、公汎な政策が必要とされるのである。