2009/07/05

世界中で進むギャンブル合法化とそのジレンマ

「ギャンブルの合法化は途上国を救うのか」(COURRIR JAPON Vol.035, 2007.9)

マカオがギャンブルを合法化したのは19世紀。中国の特別行政区となり2000年過ぎ頃よりギャンブルのメッカとなった。収益ではラスベガスを既に抜いたらしい。今日、合法ギャンブルは世界中に広がっているが、合法化の流れが押し寄せているが、主な理由としては、
1 東欧、中南米、アジアにおいて都会の中流階級が台頭し、可処分所得を持つ人口が増大したことによる。
2 それらの先制政治国家が大きく民主的に変化しつつあるなかで、国家が道徳規準を決めることについての反対というか、自由化が進んでいるという。例えば人種に関する法律と厳しい社会的基準を政府によって植え付けられてきた南アメリカ共和国でも、ギャンブルやストリップなど従来制限されてきた活動が自由化されつつある。
3 インターネットでクレジットカード使用によるオンラインカジノが国境の壁を無効にしたのも事実。オンラインカジノ市場は2010年には240億ドルにまで成長する見込みだ。
4 世界全体で5000億ドルの年間収入をもたらす観光産業(今や世界で最も多くの人を雇用する大規模産業である)の競争の激化も大きな要因のひとつ。観光客も増えようとしている状況の中、各国の観光資源には限りがあり、伝統を大量生産していかないといけないのであり、新たな観光資源の創出にやっきになっているという。シンガポールがカジノを計画しているのも、小さい国の文化遺産には限界があるからである。

しかし、ギャンブルの合法化は表に見えない深い影響を及ぼす可能性があると記事は指摘している。犯罪などの弊害は地下ギャンブルの合法化により減少するが、膨大な消費者債務が、発展途上国の国家の財政を脅かす可能性があるというのだ。かつて現金のみ流通していた国においてカードが慣習化され、例えばロシアでは個人消費者への融資が4年間で15倍(10億ドル→150億ドル)に増え、自己破産が急増している。また、カジノにおいて創出される雇用は、技術を生まないサービス業のみであり、なまじ雇用が増えると、マカオで起きたデモのように、カジノで大儲けする外国人らとの所得格差が不満に変わるという。

カジノを創る側の論理は、税収入アップ、雇用の創出、非合法カジノ(マフィアがらみ)の一掃、観光資源の確保、などメリットはいろいろあるのだが、世界中でそれをやってしまうと効果はともかく、面白くない。カジノというものが、ディズニーランドに変わる「土地の文脈を必要としない観光資源」と捉えられているようだが、それは少なくとも「他では体験できない体験」を提供できるからであって、本当に各国にカジノが出来た時には、一部のギャンブル好きを除いて(彼らだってどこでもできるのなら旅行の時くらいは別のことをしたいハズだ)旅行するたびにカジノに行くとは思えない。創りたいけどみんな創ると価値が下がるというジレンマを抱える。ということは、本当はバナキュラーなカジノ構想が求められているのではないだろうか。各国の伝統的非合法ギャンブルを体験できたり、祭りでゲームをするようなカジノなんていいかもしれない。というか、そうなったら実はカジノはもうおまけであって(ギャンブルを合法化する口実)いつでも祭りが楽しめるような祝祭空間であるほうが重要になってくる。そんなものが出来たら新たな、しかも文脈を必要としない(あるいは文脈を客が勝手に想像してくれる)良質な観光資源になるに違いない。