2010/01/10

アバターの想像力

川崎IMAXシアターで話題の『アバター 3D IMAX版』を観てきました。正月休みの流れで娯楽と言えば映画を最近よく観ているので、遊びといってもできるだけそういう自分の糧になるようなものに時間を費やしていきたいと思います、という言い訳めいたことを言いながら、、、勉強、勉強と。アバターには普通の3D版とIMAX3D版があって、見比べたわけではないのでわかりませんが、現在首都圏では川崎しかないIMAX版が一番すごいらしい、ということでわざわざ川崎まで。

最近では『思想地図No.4』でも特集されていたように、人間の「想像力」がどこまで到達できるか、ということは非常に興味深い話題です。クリエイティブに属する人達にとってはそれを体験するのは仕事といってもいいくらい。僕はドラゴンクエスト派かファイナルファンタジー派かと問われればドラクエ派だと答えるのですが、ファイナルファンタジーの提示する世界観のような想像力は世界的に見ても素晴らしいものがあると思っていて、他には例えばナウシカなどの宮崎アニメ(全部ではない)、優れた漫画等、日本が世界に誇るものは「想像力」であるとさえ言えるのではないかと考えています。しかし久々に、ハリウッドの「制作費がすごいからね」とか「コンピュータ技術があるからね」といった言い訳(負け惜しみ)ができない敗北を期したと思えるくらいに圧倒されたのが、このアバターでした。

まず話題の3D映像、これは本当にすごい体験をもたらしてくれます。ディズニーランド的なびっくりするような、ついよけてしまうような3D、キワモノとしての3Dを「想像」している方はそれは過去に体験した記憶にすぎないのであって「想像」とは言えない(などと無理やり「想像力」に結びつけていますがw)のです笑。そういったびっくりのさせ方は主題ではないためわざと避けています。序盤にパターゴルフでころころ(この、ころろころというゆっくり感がポイント)ボールが手前に転がってくるシーンがありますが、そういうシーンで観客の感覚を慣らしているため、後半は本当に自然に3Dの世界に溶け込むことができます。それでいて要所要所でぐぐっと画面に惹きつけるシーンがあって、もう完璧なのではないかと。引いた絵、寄った絵、奥行き(広がり)のある風景、近景の迫力を重視した風景、動きがあって迫力がある絵、動きがなくて迫力を出す絵、等のバランスが本当に優れていて、手馴れているというか、完璧というか。

そして、地球でない惑星での話なので、舞台の背景が全てファンタジー的というかその描き方がもうすごい。出てくる生物もその動きも含めて非常に面白い(もう少し多様性を感じさせてもよかったですけど)し、植物や木や自然などの風景が3Dの迫力を活かしてホントに素晴らしい。思わずうおっと唸る「創造的」な風景描写が満載です。同時に地球人の乗り物などもなかなかなのですが、そういった世界感を体感するだけでもいろいろ刺激されます。1日でクリエイティビティが3割アップした感じです笑。単純に超リアルですし、ドラゴンボールのカプセルコーポレーションの内部(最大の賛辞)をはるかに超えた世界構築の想像力がハンパない。

と、謎にべた褒めの映像は百聞は一見にしかずですが、想像力あふれる「思想」としてぐっと来たシーンは「馬的なものに乗るときにやるあること」と「地元民達が主人公とつながる場面」。異星人(つまり人間にない能力を持つ存在)を描いてきた映画はたくさんあれど、ああいうつながりの描き方はなかったのではないか。この星の人たちは人の考えていることがわかるのです、とか人間にはない動物的な嗅覚を持っていて、、、といったのが普通よくある異星人の描かれかたであって、異星人を地球人にはない優れた特徴をもったものとしてキャラクタライズする際のよくあるパターンなわけです。しかしここでは、それこそ「新しい」異星人の描かれ方がされていると思います。

そこでされるあること(映画では他の異星の特異性と並ぶのでそれほど特殊な描かれかたはされていませんが)は、現代社会に汚染された我々が理想とする「異文化との関係性」であり、かつそれが大変現代的な発想で想像された仕組みであり、、、、、などなど、ネタバレ防止のための曖昧な表現で申し訳ないのですが、裏テーマ的なる「アバターとは何か」に対する「別のアバター性」という答えだと言えるのかもしれません。という製作者の意図とは関係ない、自分勝手な「あえての深読み」にすぎないのですのが、、、まあ、どこかのアニメかなんかでありそうなアイディアなので、映画的な新規感は実際それほどないのですが(過度に期待を煽っても仕方ないですし)この映画でそういう描き方をするということにびしっと共感した次第です。

そんなとにかくすごいアバター、映像はすごいけど話はちょっと、というレビューをいくつか見かけましたが、それほど悪くないと思います。確かに大筋はよくあるパターンでありますが、その枠組、つまり「物語の大筋が定型かつ単純であること」を責めても仕方ないですし。でもその中でも十分ハラハラさせ、盛り上げ、今日的な主題を(言葉でなく)体感として伝達するきちんとした展開になっていたように思えます。だって地球でない惑星で、異星人の文化や特殊能力、アバターという仕組み、人間と原住民の双方の歴史と狙いなどを最小限の言葉と最低限の自然なシーンによるきちんとした文脈づくりが出来ており、主題の伝達もはっきりしていて、人物も手際よく描かれており、あちらの惑星側の視点でその世界観を体感できるあたり、僕としては脚本もなかなかよい!と言い切りたいと思います。主人公の素性が明らかになるあたりなどイマイチ乗れない部分やつっこみどころがマッタク無いわけではないですけど、それは野暮かと。

とは言えリアリティ重視派としてひとつだけ(大きな)文句を言うと、地球人の描き方がバカすぎです。観客の誰もがその行為に怒りを覚えるように、地球人もあんなことを平然とやるほどバカではないのでは、という印象を持ちます。しかしその愚かさを描くことが物語上必要だったとすれば(それはそれでいいと思う)、いまどき「金に目がくらむ」的なきっかけであんなことをやらせるのではなく、例えばささいな何かのきっかけでキレてそういうことをしてしまうとか、地球人にとってこの星そのものの扱われがそもそも酷いとか、そういう人間の本質(それも現代的な)をえぐるようなシーンが必要だったのではないでしょうか。だってだれもが「戦争はいやだ」とか思っているのに戦争が起こっている現実というのは、そう単純な話でないわけだし、この映画が伝えようとしている(それこそ現代アメリカ的な)主題をより強化するものになったはず。そういう内面をきちんと描いていかないと、終盤あの女の子の「彼らの星にはきっと〇〇がないんだよ」とかということで今日得た教訓は「単純に憎むべき敵を設定する」ことこそもうやめるべきでは、と。

そんな感じで、非常にオススメです。2012とか観ている暇があればアバター2回ですね笑。テレビがカラーになった、とか初めてスターウォーズ観た、とかそういう類のブレイクスルーであることは間違いなし。