2010/01/02

ワンピースと少年漫画

只今劇場公開中の『ワンピース・ストロングワールド』が空前の大ヒットらしく、劇場でもらえるという0巻につられて観にいきましたが、大変バランスのよく老若男女に受けるであろう面白い映画でした。誰が見ても一定の満足感が得られるのは間違いなく、原作者尾田栄一郎さんが全面監修だけあってクオリティもかなり高い。「独自に進化した様々な特殊巨大動物がいる島で、、」という設定からして、劇場で見るにふさわしいスケールを生んでいます。

もともとワンピースは冒険・アクションものという少年漫画の王道ですが、その多方面への気配りの射程の広さはかなりのもの。例えば主人公を取り巻くキャラクターは、キャラクター・特技・で完全にキャラクタライズされており、全員がそれぞれの役割でチームに貢献します。キャラマトリックスを作ったらすべてのマスが満遍なく埋まる感じ。能力者の主人公を囲むチームのキャラを整理すると、男気あるイケメン(剣)、プレイボーイ的なイケメン(足技)、トナカイキャラ(変身・映画ではさらに着ぐるみを被っていて笑いを誘います)、可愛い系の美少女(航海士・気象を操る)、クール系の美少女(特殊な手技)、サイボーグ(体に内蔵した様々な武器)、ガイコツ(剣)、嘘つき(遠隔攻撃)、もちろん敵キャラもかなりバリエーション豊かな展開を見せてますし。

映画でも見られますが、例えば何かを探すシーンで8人のメンバーが必ず3組くらいにバランスよく別れるのもうまい。攻撃系のキャラと特殊能力系のキャラがうまくわかれるのですが、同時にその個別チームはそれぞれ能力の欠如という弱点を持つため物語的に「負けずにやられる」ことが可能(少年漫画的には能力的に弱いというのは見せたくない)で、最終的に全員集合した時の能力補完による充実感の演出につながります。

ということで、ワンピースの漫画としての特徴を考えてみました。

・徹底したチーム戦による能力補完主義(特技を生かした能力バトル)
友情がキーワードであり、ドラゴンボール型の不可避なインフレバトルに陥らない。もちろんインフレ的に敵の強さはエスカレートしていくのだが、さらに強そうなキャラをちらちら挿入してきたり、敵ボスにも中ボス扱いの手下がいてうまく役割分担が出来ている。また腕力的に弱いキャラにも独自の特殊能力があり、一番強いキャラ(ルフィ)は腕力以外では弱点だらけであるという設定も巧み。

・物語の構造設定が生む必然性
そのような敵ボスと側近であるその手下の中ボスがセット(ほとんどボス1側近2で出てくるが)といった設定はともすれば既視感 / 無理矢理感が生まれてしまうが、そこは「海賊団同士の戦い」という設定により必然化することができており、結果的にチーム戦(=主人公強さのインフレの回避)になる。また、敵が海賊であるという設定によって敵が悪事をすることへの疑念を生まないし、海賊は土地に根ざしていないため「行く先々で敵の城に行かねば」といったクリシェを回避する(敵もあくまで通りすがりである)といった構造となる。そのように少年漫画ぽさを追求するがあまりに少年漫画にありがちな「必然性の欠如」を注意深く回避している。

・物語の定型化と形式の反復
登場人物や個々のエピソード(そのストーリーがまず面白いが)の多様性を目指しておきながら、物語に「定型」の枠組みを与えている。つまりそれぞれの話の構成が構造的にほぼ一緒である。船で新しい土地へ行くと、敵の海賊とそれらよりなんらかの被害を被っている地元の街があり(敵を倒すことの正当化)、能動的、受動的にその争いに巻き込まれていき、最終的に敵を倒すのだが、必ず犠牲者でありかつ助け合うことになるキーパーソンが存在し、、、といった具合。そういった定型の反復が共通認識を生むのではないだろうか。アイツの賞金は何万ベリーだろうか(どれくらいの強さか)、アイツの能力は何だろうか(読者は一人がひとつの能力しかもてないことを知っている)、次の島はどんな島か、、、と。度々出てくる海軍に対しても彼らの強さや態度は読者が想像上で把握することが出来ているから海軍が来ただけである種の緊張を感じたりもする。それらの反復によって結果的に少年漫画としての安心感と拡張性(やろうと思えばいくらでも話を伸ばせる)を持つ。

・常に「その先」を想像させる見えない伏線の配置
そのような定型の反復によって生み出されるのは読者の想像上の「未知の島」の存在である。定型がないと「次は何か」としか考えることができないが、反復によって「次」がある「島」であるという認識が共有される。そういった共通認識の上で、先を想像させる伏線(イーストブルーにおけるグランドラインのような)が配置され、その先には何があるか、というワクワク感を生むことに成功していると言える。また「海賊にかけられた懸賞金」という個々の能力を自然に数値化する制度と、様々な能力を持つ能力者(一人につき一つの特殊能力)がいるということ、海軍の存在などの前提条件のもと、「強そう」「謎の能力」「誰だあれ?」といった様々な「その先」を感じさせるキャラが小出しにされ、読者を煽り続けている。

・少年漫画性の担保(特定ジャンルの回避と全方位的配慮)
巧みにセクシーキャラをいれつつ、そしてそれを追いかけるサンジ他のキャラを設定しつつ、徹底的に性・恋愛を回避していくプロット。性の回避という少年漫画問題については、21世紀少年について作者の浦沢直樹は、物語に性は邪魔であるが、例えば彼らを中学生という設定にすると性を入れないとリアルでない、そういった矛盾を避けるために小学生を主人公にした、というエピソードを語っている( 『クイック・ジャパン81 漫画の底力 』 )が、ワンピースも同様、性を適度にお笑いで盛り込むことで存在を否定することなく巧みに回避する。スカッとするような勧善懲悪が(あえて)ベースになっているが当然残酷なシーンもなく、しかし友情あり、お笑いあり、冒険・バトルあり、感動ありと少年漫画性は全方位抑えられている。


といった感じでしょうか。とにかくワンピースはいろいろな要素が詰め込まれ、またそのストーリー構成の巧みさにより、誰が見ても面白く、かつ少年漫画の王道を修正しつつ実践しているものであると言えるでしょう。



そんなわけで正月から誰にむけた何のための文章かわからない、しかも妙に長文を書いてしまいました、、。勢いで書いたので読み返さずに(!)投稿しますが、ご意見などあればメールかツイッターで頂けたらと思います。とにかく『ワンピース ストロング・ワールド』はオススメです。キーとなる「あるセリフ」をもう少しヒネリたいところでしたが。

それでは今年もよろしくお願いいたします。