2009/10/04

建築の社会的価値の変容の追求

伊東豊雄・藤本壮介・平田晃久・佐藤淳『建築20XX年の建築原理へ』INAX出版、2009

INAXギャラリーで行われている『建築20XX年の建築原理へ』展の本書、ギャラリーにはまだ行けていない(来週まで?)のですが、読んでみました。4人が架空のプロジェクトを元に議論したり案を出し合ったりして建築をつくるドキュメント本。

タイトルとなっている新しい建築原理を模索するというテーマで、例えば建築の大学生や大学院生にとっての建築を考えるプロセス本(最良の部類だと思う)として「建築形成の原理」を、社会にまみれた大人のヒトに対して建築とはどういう社会的存在なのかを改めて問いかける「建築生産の原理」ふたつの軸があるようです。

建築案は大変面白く見れましたし、形態とかコンセプトとか建築そのものにももちろん興味がありますが、これくらいの規模の問題設定では、特に日本では社会にどう立ち向かうかといった枠組みの方を重視せざるを得ません。「奇抜だけど、意義有り!」というマニフェスト的なインパクト生成のツールとしてデザインが存在する、そんな感じがしています。

そのような建築生産の原理よりの気になった文言を以下、ざざっと抜粋・引用します。

平田:東京ミッドタウンのプロジェクトや高層マンションなどがぼこぼこ建っていますが、そういうみんなが知っている東京のプロジェクトをアトリエ派の建築家がやっていない p042
伊東:実際にはあそこで仕事をしたい人がたくさんいるのに、仕事をしてはいけないという約束があった。名目上はハウジングにして、住むことを前提にプランニングしないといけなかった。民間のマンションでもそういう規制はありますよね。現実と乖離している p044
平田:最近はマンションでも、同じ間取りが並んでいるのは流行らないらしいです。隣室の人の行動が透明に想像できてしまうから p044
佐藤:昔、鉄の値段が人件費よりもはるかに高かった時代は、力学を追究して鉄を減らした。その時代の架構は力学的にも純粋で美しい。いま日本では人件費のほうが高いので、例えば全部大きなH型鋼でつくってしまえということになっています p046
伊東:コンテクストを連続させながらも、巨大な高層建築が可能だという提案をしたい p92
平田:オフィスだと屋外空間の快適性を評価する指標がほぼないので、とりあえず住居から崩していくのもいいかもしれない。住宅のモデルで考えていって、そこに建築の新しい指標を見出すのがひとつのロジック p126
伊東:デパートでは上の方に人が上がらないかもしれないけど三井のマンションだったら上層階のほうが値段が高い p055
山本:パブリックとプライベートに分けるという発想は、近代建築の一番扱いやすい手法に戻ってしまっている p186
伊東:敷地周辺のパークタワーみたいな高層マンションには住みたくないって、ほとんどの建築家は思っている p189


ちなみに、平田晃久案は僕の昔の修士計画にやや似ております笑。空間を多数化することで建築・都市の価値を変容(パブリック-プライベート、外部-内部、住民-通行人、スキマ-ボリューム、経済原理思想-ノスタルジック思想、建築-都市)させるべしといった、概念的な思考も含めて。