2012/02/09

政治とワークショップ

2011年はブログを書く余裕等全くない程の、非常に多くのことを経験させていただきました。そのひとつが台北で行った東大と台北科技大のワークショップ。台北の国鉄が持つ鉄道の操車場跡地(正確には現在も稼働中、数年後に移転予定)の広大な土地をどう再利用するかを考えるというものでした。学生や他の先生方と一緒に台北に行き、現地学生と合同でワークショップを行い、帰って来てからも案をまとめ、Mid-termやFinal Presentationで計3回台北に出かけてきました。

提案の内容はどこかでお目にかけることができるかもしれませんが、それよりも興味深かったのは、ワークショップの前提とプロセスでした。まず、その跡地を有用に使いたい政府と、そうは言っても土地のオーナーである国鉄のコンフリクトが前提にあり、それを解決するための第三者的な立場として台北科技大主催のワークショップ(東大以外にもいくつか呼ばれています)が開催されたということ。そのため与条件として半分弱程度の床面積を国鉄側のものにする(オフィス的なものが中心、国鉄側が使うような用途であるべき)こと、残りの床面積で収益を生むようなプロジェクト(つまり通常の倍くらいの収益単価が望まれる)であることがまず与えられました。操車場ならではの古い鉄骨の架構やバスハウスなど、歴史的に保存・リノベーションするべきものは多いのですが、それらをただギャラリーにしてOK、ということではないというのが前提です。そのようなコンフリクトからなる制約が、通常のプロジェクトに比べて「より多くの収益を生む」ことを実現しながら、一方でその政治的状況を前進させるような第三者視点の「公共性の新しい提案」をも求められるわけです。

つまりこのワークショップはただいくつかの大学の学生が協同で案をつくってよかったねというのではなく、それらのピュアな学生(を率いる大学)の「意見」(もちろん台北の一市民でもある)を武器にプロジェクトを円滑に進めるためのものであり、形を変えた市民運動のようなものであったわけです。そんなわけでワークショップに関連してシンポジウムをしたり(その中で英語でレクチャーをさせられたりもしました。レクチャーというレベルに達していなかったように思えますが汗)展示会をしたり、やたらイベントとしての枠組みはしっかりしていることに感心、政治と建築デザインの接点を垣間みることができた経験でした。

そのような取り組みが成功しているのかどうかは定かではないですが、コンペをアイディアと実施の2段階でやるということが台湾で流行っているようです。これもおそらく似たような政治的な問題で、まず注目を集めたり、その土地なりプログラムなりに対する自由な提案を公募する、というところに意義があるのだと思います。そうでなければわざわざ大きな賞金(1000万円単位)を用意して実施とは別のコンペをやる必要がないわけですから。先日藤本壮介さんが1等となったタワーのコンペも以前にアイディアコンペがあり、全然違うものが1等になっていました。また昨年東大隈研究室で取り組み2等となった新北市市立美術館コンペも、今年第二段があるそうです。これらもワークショップと同じような第三者的なアイディアを募るイベントであるわけです。新北市市立美術館の時も関連シンポジウムが企画されていたりと盛りだくさんでした。

それらがその労力やコストに見合うだけのパフォーマンスとなっているのかはわかりませんしいろいろ裏もあるのは承知ですが、政治を動かす「イベント」として可視化されていることが非常に興味深いところです。少なくとも日本の密室の談合のような、公共なのにオープンにアイディアを募ることなく強行されるようなやり方よりはいいでしょう、きっと。