2009/11/02

ラグジュアリーとは何か

東京都現代美術館で開催されている『ラグジュアリー展』を見てきました。その導入の文章がなかなかよかったです。

「ラグジュアリー — それは、時代と場所を超え常に私たちの心をとらえてきました。同時に私たちは、ある種の批判的なまなざしでそれを見つめてきました。常に姿を変え、手に入れたかと思えば彼方へと逃げて行く。にもかかわらず、それがない社会は想像しにくい。ラグジュアリーが持つあいまいさ、そして、私たちの生活とのかかわりの深さが、この言葉に今なお失われることのない輝きを与えています。」

ラグジュアリー=豪華=時代錯誤である、という態度を否定し、もちろん昨今の装飾的デザインの流行とも異なり、「ラグジュアリー」を憧憬の社会性という文脈に置くあたり、なかなか深いなぁと。逃げること=憧れという構造をうまく表しているように感じます。

展示は19世紀頃の貴族のドレスから始まりシャネルやイヴサンローランあたりまでのドレスがずらっと並び、服飾のヒト達にとってはきっと生唾もの。「モンドリアン」というスーツ(モンドリアン柄)等もあり、その先にはマルタン・マルジェラとコムデギャルソン(会場設計:妹島和世)の展示。

どれも面白いですが、マルジェラの制作時間が明記されていることに驚きます。「一着の服が出来上がるまでにかかる時間もデザインや素材と同様の価値があることを、マルジェラは私たちに教えてくれます。これは、効率性や利便性のみが優先されがちな現在に対する問題提起でもあります」とあり、これまたなるほど、と。服飾の分野が抱える問題意識がこういうところに表れているのは興味深い。何がものの質を左右するか、というまさにラグジュアリーな問題提起です。

個人的な好みとしてはギャルソンの服が展開されて(およそ服とは思えない形)撮りおろされた写真が一番ぐっと来ました。着ることを考える、というのと同時に機能と形態の不一致を批判的に追求する姿勢に共感。まあ批判的な眼で見ればこじつけにも捉えられますが、これまたラグジュアリーとは何かという文脈において展示をされたことが、この展覧会を奥深いものにしていたと思います。